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「郷土のトンボ概況」 | 1997年9月 田中 義和 |
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世界のトンボは約4,900種、日本では約180種、そのうち千葉県内での確認種は78種程だという。およそ、1県での平均確認種は70種類くらいと言われており、この点を基準にすれば千葉県は平均レベル以上ということになる。しかし、これらの記録の中には、極めてまれな種(オオギンヤンマなど)や、県内に生息適地など有り得ない種(マダラヤンマなど)も含まれていることを考慮せねばならない。さらに、近年の急激な開発に伴う生息地の消失や環境悪化で、絶滅したと思われる種(ベッコウトンボなど)、また絶滅が危惧されている種(ネアカヨシヤンマ、ベニイトトンボなど)も増えており、楽観は許されない状況といえる。 そんな中で、我々の住む市原市のトンボ状況はどうであろうか?私自身が確実に同定できた種は、52種。このほかに、ここ10年程の記録から市内に生息可能な種と見られるオジロサナエなど加えると55種前後と推定される。その特徴は、県北に見る大河(利根川)及びそのデルタを生息地とするナゴヤサナエ、オオモノサシトンボ、オオセスジイトトンボ、ヒヌマイトトンボ、などの種が見られないこと、その反面県北では生息しないアオサナエ、ホンサナエ、オナガサナエなど清流のトンボ達が未だ健全なことである。これらの種は、養老川本・支流の自然度を象徴するトンボ達といえる。他に、コオニヤンマ、ミルンヤンマ、コシボソヤンマなども上流から源流部にかけて生息している。大福山などの房総丘陵に続く山間部には、モートンイトトンボ、ヒメアカネ、ネアカヨシヤンマなど県内でも希少な種が確認されている。しかし、湿地の草原化、開発などにより、元々数の少ないこれらの種は今絶滅の瀬戸際にある状況といえる。市中間部から北部にかけての谷津田や平野部に点在する溜め池や川も残念ながら悪化の一途をたどっている。その典型的な例として、今年1年だけで、市内では数少ないチョウトンボの生息する池が、2個所も工事や汚染で姿を消してしまったことである。本来ならば、こうした場所こそ種類も数の多さも育むべき環境である。ブラックバスやコイの放流なども、生態系への影響が心配される。これらの事実を直視し、市内各所の調査・把握が必要とされているのが市原市、というより県全体の問題といえる。 *参考資料:[房総の生物](河出書房) |
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